現在4年生になっている子どもたちが小学校に入学してくるときは、コロナの蔓延が大きな社会問題となり、全国一斉の休校処置がとられていました。学校に行きたくてもいけない日々が、いつまで続くのか先が見えず不安ばかりが高まるなか、自宅でプリントやリモート学習をする日が続いていました。
ようやく登校できるようになってもクラスの半数の子どもだけが交代で登校し、友達全員の顔がそろうことはありませんでした。しかも、ずっとマスクを着けたまま、担任の先生や友だちの笑顔も見られない日々が長く続いていったのです。制約ばかりで不自由な小学校生活を過ごし、外に出て思いっきり走り回って遊んだり、楽しくおしゃべりしながら給食を食べたりできなかったのです。
そんな子どもたちが紅葉した落ち葉を宝物のように拾い上げ、ドングリや木の実をいっぱい集めて友だちと笑顔で語り合い、身近で豊かな里山の自然を感じ取ってほしいという願いを込めて、11月13日に「りょうぶの道観察会」を実施する計画を立てました。
そして迎えた当日、無情にも冷たい雨が降っていました。どんなに綿密な準備を進めていても、天気だけはどうすることもできません。やむを得ず、朝6時に「27日に延期!」としました。
予備日の11月27日、雲一つない快晴でした。京都、大阪方面から早朝より駆けつけてくださった17名の会員の皆さんが、8時すぎにJR琵琶湖線南草津駅に集まり、志津南小学校に向かいました。
4クラス118名の子どもたちを8つのグループに分けました。そして、「森の先生」として説明してくださる方と「サポーター」として見守ってくださる方2名に各グループの担当をお願いしました。これからいったい、どんなことが始まるんだろうと期待に満ちた目で、我々をじっと見つめる子どもたちの前に立つと、誰しもドキドキしてきます。
そこで11月初旬に事前研修会を「りょうぶの道」で実施しました。「りょうぶの道」とは、湖南丘陵を切り開いて造成され、1983年から分譲が開始された住宅地である草津市若草と大津市青山にまたがる牟礼山(221m)の稜線に沿って続く自然観察道です。立命館大学のキャンパスとも接しています。
初めて「森の先生」をしてくださる方にも、安心して子どもたちの前に立っていただけるようにと考えました。そこで、詳しいコース地図にそれぞれの地点でみられる主な植物を記入したマップと各ポイントでどんな説明や活動をするとよいのか、活動のヒントを書き込んだシナリオをお渡ししました。子どもたちにわかりやすく説明していただくための写真もお渡しして、使っていただけるようにしました。
お孫さんや近所のお子さんの小学校の理科の教科書を見ていただいたらお分かりになると思いますが、現在の小学校の1・2年生では、理科と社会科を合わせた生活科の学習をしています。そのため、理科の学習は3年生から始まります。しかも、4年生の子どもたちは木や森の仕組み、光合成などについては、まだ学習していません。興味のある子どもは別にして、ほとんど何も知らないというのが実情です。
そんな子どもたちに、木は、根・茎・葉からできていることや落葉樹と常緑樹があること、なぜ、紅葉や黄葉するのか、年輪って何なのかなどの疑問をみんなで考えながら、自分たちのいちばん身近な里山の自然に興味を持ってもらうことをねらいとしています。
午前9時。開会式で讃良会長のあいさつの後、各グループの担当者がそれぞれ自己紹介をして出発しました。学校から歩いて15分で「りょうぶの道」の入り口に到着しました。坂道を少し上っていくと、早速、道端に落ちていたカリンの大きな実を見つけて大喜びしてる子どもたち。事前に準備していたカリンの実の輪切りを見せ、甘い香りをかぎ、カリンのど飴の写真を見せました。木の特徴や固い実がのど飴に使われていることを説明すると、興味深く話を聞いています。
植物の観察だけではありません。少し進むと大きなタンクがそびえ立っています。これは何をためているタンクか尋ねてみても、首をかしげています。近くにあるロクハ浄水場で作られた水道水がポンプでこのタンクに汲み上げられ、みんなの家や小学校に給水されていること。みんなが持ってきた水筒に入っているお茶もこのタンクの水を使っていると知って、大きくうなずいていました。
見晴らしのよいところに立ち、40年前に開発が始まったばかりの頃の写真と現在の様子を見比べたり、学校や自分たちの住んでいる家が見えるかどうか探したりもしました。
子どもたちが山道を歩くときに注意が必要なウルシを実物や写真を見せながら説明しました。特徴的な葉の付き方を「ヨコ・ヨコ・ピン」と示すと、さっそく真似をして口ずさみながら覚えていました。
紫色のかわいい実がいっぱいついた木を見つけた子どもがいます。「滋賀県にゆかりの深い来年のNHK大河ドラマの主人公と同じ名前だよ」と言っても、キョトンとしています。残念! ムラサキシキブという名前を伝えると納得していました。
葉は落ちていましたが、赤い実から黒い種がのぞいているゴンズイ。「幹の模様が魚に似ているから、ゴから始まる4文字の魚の名前と同じだよ」とクイズを出すと、サッと手を挙げて「ゴンズイ」と答える子がいました。魚博士の子がいるんだと驚きました。
コナラの木の前でドングリの話をしました。いろいろなドングリがあることやドングリのどこから根が出てくるか、クイズを出してみんなに考えてもらいました。そして、足元に落ちているドングリの中に根が出ているものがあるか探しました。 それぞれのグループに15人ほどの子どもがいます。疲れてくると必ずしも全員が集中して話を聞いてくれるわけではありません。後ろの方でほかの草木に気を取られたり、足元が悪くて転びそうになる子も出てきます。そんな子どもたちの様子を見守り、やさしく声をかけ手を差しのべるなど、常にグループ全体に気を配ってくださったのがサポーター役の皆さんです。本当に助かりました。
下見の時にはかわいい花を咲かせていたコウヤボウキ。もう、花は枯れていましたが、この小さな植物が木なのか草なのか尋ねてみると、草だと思っている子が多かったです。草と木の違いや小さくて、細くても木であることを説明しました。そして、高野山のお坊さんが枝を束ねてほうきの材料にしたことから、この名前がついたことを話すと興味深そうに手を伸ばしていました。
「カエンタケ注意」と書かれた立て札の前で、カエンタケの話をしました。今から10年前の志津南小学校の最初の観察会で発見されました。そして、2回目がおととしの秋のことです。素手で触るだけでもただれる毒キノコのカエンタケの説明を聞き、子どもたちは食い入るように写真を見つめていました。
鋭いとげのサルトリイバラがありました。このとげのあるつるに絡まるとサルも動けなくなってしまうからこんな名前がついたことや、ルリタテハの写真を見せ、幼虫が食草としていることを紹介しました。
その近くに生えているけれど実が少ないので、事前に準備してきたアオツヅラフジの青い実を子どもたち一人ずつに手渡しました。なかの種を取り出し、種が何の形に似ているかを虫めがねで見ていると「アンモナイト!」と答える子がいました。アンモナイトの化石の写真と見比べると、本当によく似ていたのでみんなびっくりしていました。
牟礼山の山頂付近にたくさん生えているので「りょうぶの道」という名前がついたのですが、子どもたちが歩くコースにはリョウブの木が見られません。ちょっとわき道に入ったところにリョウブの木があります。昔は「救荒植物」として里山に植えられ、新芽を山菜として混ぜご飯にして食べたことを話しました。子どもたちは、すでに葉が落ち樹皮が剥がれすべすべしている幹だけになった木をなでながら聞いていました。
植物観察だけではなく、地層の観察もしました。下り坂の道の側面が小さな崖になっていて、丸くていろいろな色の小石が粘土の間にはさまっているところがあります。山の上にこんな丸い小石があるのは、大昔、このあたりに川が流れていたこと。そして、川底にあってすり減った小石が地殻変動で持ち上げられて、今はこんな山の上にあるということを説明しました。何十万年も前の大地の変動の様子をうまく思い浮かべられたでしょうか。
「りょうぶの道」の出口近くにテーダマツが何本か植えられています。よく見かけるアカマツやクロマツは、細長くとがった葉が2本ずつ束になっているけれど、アメリカ原産のテーダマツの葉は、3本が一組の束になっています。そして、大きな松ぼっくりが落ちていたので拾い上げてみると、チクチクととがった針のようなものがついていて手が痛くて、びっくりしていました。
出口が小さな広場になっていて、クスノキが植えられています。落ちていた小枝を拾って匂いをかいでみると、独特の匂いがします。クスノキにはショウノウという虫が嫌がる匂いを出す成分が含まれていて、防虫剤が作られていました。なぜ、こんな虫が嫌がる匂いを出しているのか聞いてみると、「葉を食べられないようにしている」と答えてくれました。でも、アオスジアゲハだけがこの木に卵を産み、幼虫が葉を食べて繭になり、蝶になって飛び立っていくというとどの子も驚いていました。
学校の近くの若草中央公園に集まり、簡単な閉会式をしました。子どもたちが次々と手を挙げて、感想を語ってくれました。
「いろいろな木の種類がわかってうれしかったです。」
「めちゃくちゃ細かく教えてもらって、森と友だちになれました。」
「コウヤボウキは、おぼうさんがほうきにしてたんだとわかりました。」
「リョウブの木が、食べ物になるなんてすごいとおもいました。」
「ドングリのぼうしの中がさらさらしてました。」
「いろんなことを知って、森と親友になりました。」
私たちが予想していた以上に、さまざまなことを柔らかな感性で受け止め、学び取ってくれた子どもたち。「ありがとうございました」どの子も笑顔いっぱい、大きな声でお礼の言葉を述べて学校に戻っていきました。
去年実施した観察会の後、子どもたちがお礼の手紙を書いて、送ってきてくれました。
「わたしが一番心に残ったことは、先生の説明です。なぜなら説明がやさしくて分かりやすかったからです。わたしも森の先生みたいに、しんせつでいつでも笑顔でいたいと思います。これからも笑顔でいてください。それでその元気な笑顔でいろいろな人を元気にしていってください。」
「ぼくは、りょうぶの道を歩いているとき、『森の先生はすごいなー』と思っていました。ぼくは、みなさんのことを本当にすごいなーと思います。葉っぱまみれなところをみなさんはすいすい行ってました。あんなとこ、ふつうの人ならいけないと思います。」
「森についてしつ問したらちゃんとこたえてくれたし、森について説明もしてくれて、とても森についてわかりやすかったです。いろいろと教えてもらって最後に思ったのは、植物はちえで生きているんだなと思いました。」
子どもたちは、「森の先生」と出会い、いろいろな説明を聞き、一緒に観察を続けていくなかでさまざまな植物の名前や特徴を知っただけではないのです。今まで出会ったことのない「森の先生」というすごい人がいるということに気づき、あこがれ、こんな人になりたいとさえ思ってくれたのです。これほどうれしく、励みになることはありません。
「りょうぶの道観察会」実施に向けて、ご尽力いただいた事務局の皆さま、「森の先生」としてご協力いただいた皆さま、本当にありがとうございました。来年度も、「りょうぶの道観察会」の実施が予定されています。ぜひ、ひとりでも多くの皆さまに「森の先生」として、子どもたちと関わっていただけることを願っています。 (文/岡本哲生)


